MY THOUGHT
私、町田佳菜子のWebページへ来ていただき、ありがとうございます。
ここでは、私のアイリッシュ音楽に対する思いを少し、書いてみようかなと思います。
このWebページの“HOME”にも載せているとおり、アイリッシュ音楽との出合いがセッションではなかったら、私はこんなにアイリッシュ音楽を好きにはなっていなかっただろうし、ここまで続けてもいなかったかもしれません。
2009年に初めてアイルランドへ行った理由は、日本人アーティストのAKEBOSHIが見てきた世界を見たかったからです。
私はAKEBOSHIの楽曲がそれはもう大好きで、当時聴いていた音楽は、彼のものがほとんどでした。そんな時に、AKEBOSHIがリヴァプールとアイルランドを旅しながら、現地で出会ったミュージシャンにCD制作に参加してもらう、というドキュメンタリーDVDを見てしまいました。その約半年後には、私は彼の足跡を辿るべく、アイルランドへと向かいました。
AKEBOSHIがアイリッシュ音楽の影響を受けていると知ってから、アイリッシュ音楽ってどんな音楽なんだろうと興味を持ちはじめました。友人がLunasaのCDを持っていたので、それを借りて聴きました。じゃあ、アイリッシュ音楽との出合いはLunasaじゃないか!と思った方もいらっしゃるかもしれません。ですが、当時の私はアイリッシュ音楽というものを知らなかったわけで、語弊のある言い方になるかもしれませんが、RPGに使われる感じの音楽に似ているなぁと思ったくらいだったように思います。確かに、Lunasaはかっこいいです。けれど、このあと出合ったアイリッシュ音楽は、彼らとは全くの別物であると、私は思っています。
2009年4月にアイルランドへ渡りました。語学学生として、ゴールウェイという町に約1年間滞在しました。
しかし、行ったはいいものの、英語はほとんどしゃべれなかったので、ホームステイ先に引きこもったりしてました。アイルランドに着いてから1週間くらいしたときに、語学学校のクラスメイトが帰国するので、Tig Coiliというパブでお別れ会をすることになりました。これが、私にとっての初パブです。
Tig Coiliに着いてしばらくすると、店の入口あたりでセッションがはじまりました。私にとっての初アイリッシュ・セッションです。当時はセッションという言葉も意味もよくわかっていなかったし、アイリッシュ音楽についても、知識はほぼありませんでした。とりあえず、演奏者たちの指がものすごく速く動いてることに衝撃を受けました。その日は、お別れ会そっちのけでセッションを見ていました。セッションが終わると、演奏者に話しかけ、次のセッションはいつかと聞きました。この時話しかけたのが、ご存知の方もいるでしょう、アコーディオン奏者Anders Trabjergです。
それから、セッション中心の生活がはじまりました。Andersのギグ(セッション・ホスト)へ欠かさず通うようになり、そこで、ギター奏者Anthony McGrathやアコーディオン奏者Barry Bradyに出会いました。
私は大学でアコースティックギターのサークルに所属していたので、アイリッシュ音楽もギターからはじめてみようかなと思っていました。初めてセッションで出会ったギター奏者がAnthonyで、彼にレッスンをしてもらうことにしました。Anthonyが何よりも先におしえてくれたことは、「アイリッシュ音楽で1番大切なのは、見ることと聴くこと」だということでした。
Anthonyのギグにも通ううちにBarryの演奏を見ることができました。その時から、Barryは私のヒーローです。
もちろん、Barryのギグにも、わかる範囲で欠かさず通いました。
アコーディオンを買ってからは、曲を覚えてたくさん練習しました。アイリッシュ音楽の曲は、基本的には短く、その短い曲を数回繰り返し弾き、2曲、3曲と繋げていきます。この、曲をいくつか組み合わせたものを、セットと呼びます。最初は楽譜を買って曲を覚えたりしていましたが、同じ曲でも、セッションで聴くものと、楽譜にかいてあるものと、楽譜の付属CDの音源とで小さな違いがある曲も多くありました。それに気づいてからは、基本的にはセッションで聴くメロディーを覚えるようにしました。まだセッションで聴いたことがない曲は、楽譜か付属CDか好みの方で覚えて、セッションで出てきたらそれに合わせるようにしました。
アイリッシュ音楽は、楽譜の無い時代から受け継がれ続けている伝統音楽です。地方や受け継いできた人々によって、多少異なっているのは、当然と言えば当然です。その多少の違いを気にせずに弾ける曲も中にはあるかもしれませんが、やはりセッションでは、ホストのメロディーに合わせるべきなのだと思います。セッションでは主に、ホストが曲を選んだり、曲を変えるときやセットを終えるときに合図を出したりと、彼らが中心にいるからです。
また、バウロン奏者Johnny "Ringo" McDonaghは、「家で練習するよりも、セッションに来て聴いたり弾いたりするほうがよっぽど大切だ」といつも言います。セッションを聴けば次第に曲も覚えていくし、曲を覚えればそのセッションにも入れるようになります。こんな一石二鳥な方法はないと思います。
話は変わりまして、私はアイリッシュ・セットダンスもやります。というのも、Anthonyがセットダンスの演奏もしていて、必然的にセットダンスに通うことになったんです。最初はAnthonyのギターを見に行っていたんですが、次第にダンスのほうに巻き込まれていってしまって、今でもゴールウェイに帰ると踊りに行っています。
アイリッシュ音楽はダンスのための音楽です。もちろんSlow Airなんかもありますが、基本的にはJigs、Reels、Hornpipes、Polkasが弾かれます。なので、アイリッシュダンスをするのは、アイリッシュ音楽を弾くのにとってもいいんです。ダンスはしなくても、ダンスをしている場にいて、演奏とステップの音を聴いているだけでもいいと思います。
セットダンスをやるといっても、ステップのレッスンを受けたことはないので、見様見真似といいますか、感覚でステップを踏んでいます。わからない人が見ると、それなりに見えるかもしれませんが、わかる人から見ると、適当にやっているのがバレバレかもしれないです。いつかはシャンノースダンスをきちんと習いたいなぁと思っているのですが、セットダンスに来る友人たち(シャンノースダンサーもいます)の誰に聞いても、「レッスンはしないわ」とか「おれも見様見真似なんだよ」なんて言われちゃいます。
2011年に、私のバンド「かなんとこんばんどん」(バンドといっても、活動は主にセッション・ホストで、いわゆるライブ・パフォーマンスはほとんどしていません)のメンバーで、アイルランドをバスキングしながら旅をしました。メンバーは3人で、私以外の2人はアイルランドに来たことはありませんでした。それまでは、アイリッシュ音楽自体ほとんど聴いたことがない彼らに、私がアイルランドで録音したセッションを聴かせて練習していました。
その旅の途中で、Anthonyにこう言われました。「おまえはアイリッシュのリズムを持っているけど、あの2人は持っていないね。」
旅を終えて、また何度かアイルランドに来ていますが、バスキング中に話しかけてくる人や、ギグを聴いてくれている人からも、「アイリッシュのリズムを持っている」と言われることがしばしばあります。私は、これはとても嬉しく、自信を持てることだと思っています。
この「アイリッシュのリズム」を、言葉で説明することは、私にはできません。私自身、誰かから言葉でおしえられたわけではなく、セッションから、ダンスから、パブで出会った友人や周りの人々から、感覚として得ていったものだからです。Johnnyが「家での練習より、弾けなくてもセッションに来るほうが大切だ」と言うのは、この「アイリッシュのリズム」の重要性を示しているのだとも思います。
また、これまでたくさんのセッションに参加してきて、セッションの持つ口承の力を強く感じます。アイリッシュ音楽は、生きた伝統音楽です。アイルランドのセッションでは、小さな子どもからおじいさん、おばあさんまで、初心者から超ベテランや有名人まで、みんなが一緒になって輪になります。アイルランドのアイリッシュ奏者たちは、セッションで学び、セッションで育ち、セッションで共有し、セッションで表現しているのだと思います。その環境・システムがあるからこそ、アイリッシュ音楽は、こうして今でも受け継がれているのでしょう。
もうすぐ私は、日本に帰ります。
2009年からこれまで、本当にたくさんのことを見て、聴いて、感じられる環境にいられたことに感謝しています。これからは日本で、今まで私が経験してきたそれらを、セッションを通して感じてもらえるよう、活動していけたらと思っています。
長くなってしまいましたが、ここまで読んでいただいた方々、ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
2014年9月12日 町田 佳菜子
P.S. この文書では、いろいろな事をできるだけ短く表現しようと頑張りました。ここで書き切れなかったことは、2011年度の卒業論文に書いてあります。もしお時間ありましたら、読んで頂けると嬉しいです。(こちらから読めます)